読書の時間がない日記

図書館で文芸誌を借りるのが好き。永住の地の最寄り図書館は好みの文芸誌が置いていなくて悲しい。育児と仕事で読書の時間が取れないサラリーマン。

2020-01-01から1年間の記事一覧

中村文則/私の消滅(文學界2016年6月号)

人が人たる為の“脳”。これをいじれば“その人”なんて簡単に変わってしまう。何をもって“私”ができあがるのか、このテーマがとても興味深い。しかし果たしてこれは小説か?叙述の技法を見ると確かに小説然としているのかもしれないが、どちらかというとへぇー…

村田沙耶香/信仰(文學界2019年2月号)

やはり着眼点が面白い。 斉川さんの浄水器と、みんなが何十万もぽんぽん払うロンババロンティックと、一体何が違うんだろう。 …(略)… 浄水器は詐欺で、ロンババロンティックは「本物」。私はよくわからなくなっていた。 なるほど。価値があると“思いこむこ…

村田沙耶香/地球星人(2018年5月号)

期待が大き過ぎた。しかし、充分に及第点だった(何様)。本作は女性の生きづらさを描いた作品なのかもしれないが、それよりも「高度な専門能力や優れた身体能力、恵まれた容姿などがない人間は価値がないという昨今の風潮を揶揄したもの」として読んだ。女…

金原ひとみ/デバッガー(新潮2019年8月号)

ルッキズム極まれり。 自身の髪(主に前髪)を気にしていた頃を思い出して、読んでいる間は脂汗のようなものが出てきて動悸がおさまらなかった。とにかく自分への執着が止まらなくてまともに社会生活を歩めなかったあの頃。自身の醜さばかりに気を取られて、…

宮内悠介/ローパス・フィルター(2019年1月号)

テーマは面白い。過激で扇情的なものが溢れるSNSからそれらを排除して静寂なSNSを実現したいというのは誰しもが願っていることのように思う。(と思いつつ、はてなブックマークをヘビーに利用する自分は矛盾しているけれど) 「乱暴にまとめると、昔、頭のい…

舞城王太郎/勇気は風になる。(新潮2019年1月号)

どうした新潮2019年1月号。この号では児童虐待を扱うという方針があるのか。育児世代の自分には精神的にクルものがあるんだけど。醜悪な人間を描ききる表現力に恍惚とする。磯部文鳥。現実では絶対にお目にかかりたくないが、小説に登場する醜悪な性格の人間…

天童荒太/迷子のままで(新潮2019年1月号)

初・天童荒太。文芸誌は新しい作家さんと触れ合う機会があって楽しい。 文章が上手いという印象はない。極端に言えば説明文の羅列のように思えてしまう。文章表現ではなく、扱うテーマと物語の内容で勝負する作家さんなのかな。4歳児を育てている自分にとっ…

田中慎弥/完全犯罪の恋(群像2020年4月号)

初・田中慎弥。 冒頭で本作が私小説と思われるかのような曖昧な暗示?が書かれていて、この時から私小説とでしか読めなかった。 失礼な物言いだけど、主人公たちの苦悶の念とは裏腹に、自分には終始盛り上がりに欠ける物語であった。特筆すべき心打たれる文…

金原ひとみ/ストロングゼロ(新潮2019年1月号)

私には純文学というものがどういうものなのか分からないが、基本的にエンタメとして摂取している。芥川賞を獲った『コンビニ人間』もエンタメと捉えていた自分からすれば、この作品は全くもってエンタメだった。 私は、自分に自信を持っていて人生のあらゆる…

最果タヒ/猫はちゃんと透き通る(文藝2020年春季号)

初の最果タヒ。 なんか、わたしには見えていないものをみんな見すぎていない?――どうしてこの世界では、当たり前のように通じ合い分かり合い人々は生きているのだろう。その違和感に全身で挑む、著者飛躍作! 例に漏れず、惹句に興味を覚えて手に取った。自…

遠野遥/改良(文藝2019年冬季号)

期待の遠野遥初作品。しかし、明け透けなエログロは苦手なのでこの作品は駄目だった。冷徹に美醜について評価を下すのだけが良かったかな。 んー、もう一作くらい読んでみるか、ずっとこんな作風なんだろうなという気もするけど。次回に期待。

羽田圭介/滅私(新潮2020年9月号)

初の羽田圭介作品。 物を持たず、記憶はHDDに格納――ミニマリズムに没頭する男を、1枚の写真が究極の捨てへと導く。現代の虚無を照射した快作! この惹句に興味をひかれて手に取ったけど、うーん、インパクトに欠けるまま終わってしまったかな。ミニマリズム…

舞城王太郎/裏山の凄い猿(群像2018年12月号)

正直、舞城王太郎のぶっ飛び感はあまり好きになれず、食指が動かない。世界観もぶっ飛んでいるし、何より怒涛のように流れ打つ文書が好みではない。が、これは面白かった。「結婚できない」と指摘されたことに素朴に悩む主人公にまず胸を捕まれ、「人のこと…

上田岳弘/ニムロッド(群像2018年12月号)

不思議な吸引力をもつ作品。盛り上がりには欠けるので序盤から中盤まで、登場人物に愛着が湧いてくるまでは読み進めるにあたって多少こちらのコンディションを選ぶ。箴言めいたセンテンスが散りばめられていて、それは好み。特に、主人公の彼女が呟いた、発…