読書の時間がない日記

図書館で文芸誌を借りるのが好き。永住の地の最寄り図書館は好みの文芸誌が置いていなくて悲しい。育児と仕事で読書の時間が取れないサラリーマン。

村田沙耶香/信仰(文學界2019年2月号)

やはり着眼点が面白い。

斉川さんの浄水器と、みんなが何十万もぽんぽん払うロンババロンティックと、一体何が違うんだろう。 …(略)… 浄水器は詐欺で、ロンババロンティックは「本物」。私はよくわからなくなっていた。

なるほど。価値があると“思いこむこと”、それ自体は共通しているのに一方は正常であって他方は異常だと切り捨てられる。それらはどちらも“信仰”そのものであって、この考えに至ると確かに何をもって正常・異常を判断すればよいのかが分からなくなる。自分の足場が急に崩れたような、ヒヤッと肝が冷えるようなこの感じ。面白い。

私は子供のころから、「現実」こそが自分たちを幸せにする真実の世界だ思っていた。
私は自分だけでなく、周りの人にもそれをすすめ続けた。

「え、化粧水が1万円?嘘でしょ?ほら、成分見てみなよ。私がマツキヨで買った400円のやつと、成分ほとんど同じでしょ?」
私は友達を幸せにしたくて言っているのに、皆、私の指摘に表情を曇らせた。皆、目に見えないきらきらしたものにお金を払うのが大好きだった。私がそれはぼったくりだと言い張っても、皆、絶対に、目に見えない幻想にお金を使うのをやめないのだった。

そしてこの世の核心?(信仰の玉虫色さ?)に触れた主人公もまた極端な人間であった。ここまで程度が著しいと最早コミカル。エンタメ小説だ。思えば『コンビニ人間』も主人公の言動の極端さがコミカルですらすら読まされた。村田沙耶香は本当に楽しいエンタメ作家だ。

思いのほか短編で残念だった。もっとこの世界に浸っていたかった。主人公を本当に洗脳まで導いてほしかった。洗脳されることをものすごく期待していた。